「テアニン」は、お茶に含まれている、うま味や甘味のもととなる成分です。その名称だけでも耳にしたことがあるという方もおられると思います。
テアニンは、リラックス効果、睡眠改善効果などが報告されており、高ストレス社会に生きる私たちにとっては、非常にうれしい成分といえます。そして、2015年4月から「機能性表示食品制度」が始まったこともあり、今後、テアニンの広がりにますます拍車が掛かっています。
そこで、この記事では、L-テアニンの基本的な情報とその効果、副作用などについてご説明したいと思います。
L-テアニンとは?~基本情報~
まず、テアニンの基本的な情報をご説明しておきたいと思います。
テアニンとはどんなもの?
「テアニン」(グルタミン酸エチルアミド)とは、緑茶などのお茶に含まれるアミノ酸の一種で、お茶のうま味や甘味に主に関与する成分です。テアニンは、茶に含まれる遊離アミノ酸の約4割を占める重要なアミノ酸です。うま味成分として知られるグルタミン酸と似た化学構造を有し、数ある植物の中でも、茶、ツバキ、サザンカなど一部の植物にのみ存在する物質です。
テアニンは、乾燥茶葉中に1~2%程度含まれ、特に玉露や抹茶に多く含まれることが知られています。これらのお茶では、品質の高いものほど、テアニンが多く含まれているという報告もあります。
テアニンの歴史
今から70数年前に、京都府茶業研究所(現在の京都府農林水産技術センター 農林センター茶業研究所)の技師であった酒戸弥二郎(さかとやじろう)氏が、緑茶のうま味成分を探索する研究に取り組んでいました。
1942年、最初甘味を呈し、後味はグルタミン酸に似たうま味を示す物質を得ました。そして、1950年になって、酒戸氏は、この物質の発見を「茶の成分に関する研究(第3報)‐新Amide “Theanine”に就いて」というタイトルで論文に発表しました。
この物質は、発見当時の茶の学名であった「Thea sinensis」(テア・シネンシス)にちなんで、「テアニン(Theanine)」と命名されました。その後、テアニンは分離精製され、化学構造が明らかになり、日本では1964年7月に「L-テアニン」として食品添加物に指定されました。
テアニンは、茶でどのようにして作られるのか?
テアニンは、茶の木(茶樹)の葉ではなく、根で作られます。根で作られたテアニンは、茶樹の生育に伴って、茎を通って葉へ移動します。そして、葉が日光を浴びることによって、テアニンは分解され、お茶の渋み成分であるカテキンへと変化します。
テアニンは、緑茶、ウーロン茶、紅茶など、すべてのお茶に含まれています。お茶の中でも、日光を遮って栽培(被覆栽培)される玉露やかぶせ茶、てん茶は、カテキンへの変化が抑えられるため、茶葉中にテアニンが豊富に含まれています。テアニンは、二番茶よりも一番茶、一番茶の中でも特に新芽に含まれる量が多くなるため、新茶や玉露は、うま味の多い味わいとなります。一方、成熟した芽ではテアニンが少なくなるため、番茶に代表されるように、茶はあっさりした味わいになります。
テアニンと香り
テアニンはアミノ酸の1種であることから、お茶の味を構成する成分であることは既に述べたとおりですが、味だけでなく、香りにも大きく貢献しています。
お茶の製造では、加熱工程により、テアニンは、糖と反応して香気成分(揮発性物質で、香りを有するもの)を構成することが明らかになっており、「火香(ひか)」(茶葉を100℃以上で加熱した後に発生する香ばしい香り)、「焙じ香(ほうじか)」(茶葉を180℃前後できつね色になるまで焙じた後に発生する特有の香り)の形成に役立っています。
テアニンのうま味の実際
先の第1.1項でご説明したとおり、テアニンは遊離アミノ酸の約4割を占めることから、お茶のうま味を構成する成分であると認識されてきました。
しかし、試薬として販売されている高純度に精製されたテアニンを舐めても、グルタミン酸ナトリウム(うま味調味料「味の素®」の主成分)のような強いうま味は感じられず、「うま味」というよりは「ほの甘い」味がするそうです。
実際に、グルタミン酸とテアニンは、味を感じる最低濃度が異なり、テアニンはグルタミン酸の10倍以上と報告されています。すなわち、グルタミン酸は、テアニンの1/10程度の濃度でも、味に対して同等の効果があると考えられます。
このようなことから、テアニンは、うま味よりもむしろ、お茶に含まれるカフェインやカテキンの苦み、渋みを緩和する働きを有しているのではないかと考えられています。
L-テアニンの5つの効果
次に、L-テアニンの代表的な効果についてご説明します。
①カフェインによる興奮作用を抑制する効果
昔から、お茶を飲むと、「ほっこりする」、「心が和む」というようなことが感じられてきました。これまでの研究で、L-テアニンには、ヒトの脳などに働きかけ、お茶に含まれるカフェインの興奮作用を抑制する効果があることが明らかになっています。
お茶やコーヒーに含まれているカフェインには、興奮作用や覚醒作用があります。お茶においては、L-テアニンがカフェインの興奮作用を緩和していると考えられてきましたが、カフェインを飲用した際に出現するβ波(興奮状態時に出現する脳波)が、L-テアニンにより抑制されることが確認されています。
②学習能力、集中力を向上させる効果
ラットを使った基礎研究では、ラットにL-テアニンを投与すると、記憶力や学習能力が高まることが示されています。これは、投与されたテアニンが血液脳関門を通過し脳内に入り、神経伝達物質であるドーパミンやセロトニンの濃度を変化させるためと推測されています。
また、健常被験者における認知および気分に対して100 mgのL-テアニンと50 mgのカフェインの摂取がどのように作用するかについて調べたところ、L-テアニンとカフェインの組合せが、注意機能とパフォーマンス精度をともに向上させ、記憶課題に対する気を散らす感受性を低下させることが分かりました。これによって、L-テアニンとカフェインの組合せが、過酷な職務においてパフォーマンスを改善するのに有益であることが明らかになりました。
③リラックス効果
人間がL-テアニンを摂取した際の脳波の変化について検証したところ、L-テアニンを200 mg摂取30分以降にα波の出現が活発化することが認められました。α波は、リラックス時に出現する脳波として知られており、これによって、L-テアニンのリラックス効果が確認されました。また、不安傾向が低い人の場合では、約50 mgのL-テアニンの摂取でもα波が出現することがあるようです。
L-テアニンの濃度が高いほどα波が強く現れることから、リラックス効果はL-テアニンの量に比例すると考えられています。
④睡眠改善効果
L-テアニンには、脳の興奮を抑えて神経を沈静化する効果があるため、快適な睡眠が得られるという効果があります。
健常な男性に、L-テアニンを200 mg含む錠剤を6日間、就寝1時間前に毎日服用させたところ、プラセボ(偽擬似薬)を服用させた場合と比較して、睡眠途中で起きてしまう時間が短くなり、起床時のリフレッシュ感が高いことが確認されました。また、寝つきに関する点数も、10人中7人が、プラセボと比較してL-テアニンを摂取した場合の方が高くなりました。
L-テアニンを就寝前に摂取することで、寝つきを良くして中途覚醒(眠りに入ることはできるが、睡眠の途中で目が覚めてしまうこと)を減少させ、睡眠から覚醒への移行をスムーズに進行させると考えられます。
⑤月経前症候群(PMS)、更年期障害の症状を改善する効果
L-テアニンは、女性特有の悩みであるPMSや更年期障害の症状を和らげるという報告もあります。
具体的には、L-テアニンは、月経前にあらわれるイライラ、憂鬱、集中力の低下、疲れやすい、むくみといった症状を改善します。同様に、更年期障害によるほてり、動悸、イライラ、不安感といった症状も軽減します。
PMSの自覚症状のある20~40歳代の女性を対象とした試験では、1日200 mgのL-テアニンを、排卵日から月経開始日までの約2週間摂取させたところ、PMSの症状が改善されたという結果が出ています。
L-テアニンの副作用について
L-テアニンの問題となる健康被害や副作用については、これまで報告されていないようです。
また、経口摂取で短期間であれば、安全性が示唆されています。L-テアニンを1週間に1回200 mgを摂取した場合、3か月まで安全であったという報告があります。ただし、安全性については、人間に関する信頼できる情報が十分にないことから、今後の詳細な検討が待たれます。
なお、妊娠中や授乳中の安全性に関しては、信頼できる情報が十分にありません。このため、妊娠中や授乳中の使用は避けた方がよいでしょう。
医薬品などとの相互作用については、降圧剤との併用により、その効果を高める可能性が報告されています。また、カフェインなどの興奮剤との併用により、その作用を弱める可能性もあります。
L-テアニンの適切な1日摂取目安量について
L-テアニンは、生命の維持に必要な栄養素ではないため、1日の摂取量は特に定められていないようです。上述したように、L-テアニンのリラックス効果は、L-テアニンの量に比例すると考えられています。
しかし、お茶でテアニンを多く摂取しようとすると、利尿作用やカフェインなどの悪影響が懸念されるため、注意が必要です。
また、健康食品やサプリメントからL-テアニンを摂取する場合は、商品のパッケージや説明書に記載されている情報(用法、用量など)に目を通し、これらに従うことが重要です。
なお、睡眠改善効果をうたった機能性表示食品に表示されているL-テアニンの「1日摂取目安量」は、200 mgであることが多いようです。ちなみに、L-テアニン200 mgは、煎茶20杯分に相当します。
L-テアニンの効果持続時間について
先の効果や副作用の段落でご説明したとおり、L-テアニンによるリラックス効果は、摂取30分以降に表れます。そして、この効果は、少なくとも2時間は持続すると考えられています。
なお、L-テアニンは、腸管から吸収され、血液、肝臓に取り込まれ、血液脳関門を通過し、脳内に到達することが知られています。脳内へ取り込まれたL-テアニンは、神経伝達物質の濃度を変化させるように機能すると推測されています。「血液脳関門」は、脳への物質の取り込みを調節する機構であり、特定の物質しか通しません。このため、L-テアニンは、脳内で機能することができるのです。脳内において、L-テアニンは、一定の時間、機能していると考えられます。
L-テアニンを含む機能性食品10例
科学的根拠(エビデンス)に関する情報を届け出ることにより、企業の責任において機能性をパッケージに表示することができる「機能性表示食品制度」がスタートしました。
この機能性表示食品のうち、「機能性関与成分」が「L-テアニン」である10例を以下にご紹介します。なお、「表示しようとする機能性」に、L-テアニンによる効果が示されています。この内容にも注目しましょう。
1.「ネナイト」(アサヒフードアンドヘルスケア株式会社)
表示しようとする機能性:「本品にはL-テアニンが含まれます。L-テアニンには、睡眠の質を高めること(起床時の疲労感や眠気を軽減すること)が報告されています。」
引用先:http://www.asahi-gf.co.jp/company/newsrelease/2016/0714/
2.「リフレのぐっすりずむ」(株式会社リフレ)
表示しようとする機能性:「本品はL-テアニンを含みます。L-テアニンは睡眠の質をすこやかに改善(睡眠時間延長感を高め、すっきりとした目覚めと起床時の眠気の軽減・疲労感の回復に役立つ)するとともに、一過性の作業などによるストレス(精神的負担)を和らげる機能が報告されています。」
引用先:http://hc-refre.jp/item/gussurhythm-supple/functional.html
3.「爽眠α」(株式会社プログレ)
表示しようとする機能性:「本品にはL-テアニンが含まれます。L-テアニンには、起床時の疲労感や眠気を軽減することが報告されています。」
引用先:http://progres-fukuoka.com/
4.「テア眠」(株式会社タイヨーラボ)
表示しようとする機能性:「本品には「L-テアニン」が含まれます。L-テアニンには、夜間の良質な睡眠(起床時の疲労感や眠気を軽減)をサポートすることが報告されています。」
引用先:https://www.taiyo-labo.jp/products/detail.php?product_id=61
5.「快眠サプリ」(オリヒロプランデュ株式会社)
表示しようとする機能性:「本品にはテアニンが含まれます。テアニンには朝目覚めた時の疲労感を軽減することが報告されています。」
引用先:http://www.amazon.co.jp/dp/B01BDD5U8Y
6.「サンテアニン200」(株式会社タイヨーラボ)
表示しようとする機能性:「本品には「L-テアニン」が含まれます。L-テアニンには、起床時の疲労感や眠気を軽減することが報告されています。また、L-テアニンには、一過性の作業にともなうストレスをやわらげることが報告されています。」
引用先:https://www.taiyo-labo.jp/products/detail.php?product_id=59
7.「ヘルスエイド® テアニン」(森下仁丹株式会社)
表示しようとする機能性:「本品にはL-テアニンが含まれます。L-テアニンには作業などに由来する緊張感を軽減する機能があることが報告されています。」
引用先:https://www.181109.com/item/08880/
8.「テアニン快眠粒」(株式会社全日本通販)
表示しようとする機能性:「本品にはL-テアニンが含まれます。L-テアニンには、夜間の健やかな眠り(起床時の疲労感や眠気の軽減)をサポートする機能があることが報告されています。また、L-テアニンには、一過性の作業によるストレスをやわらげる機能があることが報告されています。」
引用先:https://www.dmjegao.com/items/view/12801GD0016028
9.「グラソー スリープウォーター」(日本コカ・コーラ株式会社)
表示しようとする機能性:「本品には「L-テアニン」が含まれます。L-テアニンには、健やかな眠り(朝目覚めたときの疲労感と眠気を軽減すること)をサポートすることが報告されています。」
引用先:http://www.glaceau.jp/sleep/
10.「テアニンの働きで健やかな眠りをサポートするむぎ茶」(株式会社伊藤園)
表示しようとする機能性:「本品にはL-テアニンが含まれています。L-テアニンには夜間の健やかな眠りをサポートすることが報告されています。」
引用先:http://www.amazon.co.jp/dp/B012SG14TY
まとめ
私たちが日常で摂取する食品には、タンパク質の合成に利用される約20種類のアミノ酸以外にも多くのアミノ酸が含まれています。しかし、これらのアミノ酸は効果が明確にされておらず、そのほとんどが詳しく研究されていません。その中で、L-テアニンは、さまざまな効果を有しており、さらなる研究が続けられています。今後、L-テアニンは、効果が解明されるに伴って、ますます注目が集まる成分なのではないでしょうか。
緑茶には、興奮作用を示すカフェインも含まれているため、L-テアニンだけを効率よく取るには、健康食品やサプリメントを利用するという選択肢があります。ご紹介したように、L-テアニンが原料として含まれている健康食品やサプリメントは、各社から販売されています。この機会に利用されてみてはいかがでしょうか。