「プロテオグリカン」は、化粧品、健康食品、医薬品の原料として幅広く使用されています。名称だけでも聞いたことがある、という方もおられると思います。
プロテオグリカンは、コラーゲンやヒアルロン酸と同様に保水性に優れており、最近注目されている成分の一つです。
また、近年、わが国では、サケ鼻軟骨からの抽出技術を利用したプロテオグリカンの製造・販売に大手企業が参入したこと、そして、2015年4月から「機能性表示食品制度」がスタートしたこともあり、プロテオグリカンの広がりにますます拍車が掛かっています。
そこで、この記事では、プロテオグリカンの基本的な情報とその効果、副作用についてご説明したいと思います。
プロテオグリカンとは?~基本情報~
まず、プロテオグリカンの基本的な情報をご説明しておきたいと思います。
プロテオグリカンとはどんなもの?
「プロテオグリカン」とは、タンパク質に糖が結合した糖タンパク質の一種です。「プロテオグリカン」の「プロテオ」とはプロテイン(protein)、つまりタンパク質を意味し、「グリカン」は多糖類を意味します。
プロテオグリカンは、動物の皮膚や軟骨に豊富に存在しています。プロテオグリカンは、保水性に優れているため、皮膚では、ハリや弾力、潤いを与える役割を担っています。そして、軟骨では、緩衝作用により関節の動きを助けます。
プロテオグリカンは、現在、化粧品、健康食品、医薬品の原料として使用されています。
プロテオグリカンの歴史
プロテオグリカンは、19世紀末に発見されました。かつて、プロテオグリカンは、牛の気管軟骨やニワトリの鶏冠(とさか)などの限られた部位からしか抽出することができず、非常に高価であり(1 g当たり3,000万円以上)、広く普及しませんでした。しかし、近年では、後述するように、サケの鼻軟骨(氷頭:ひず)から安価で効率よく抽出できるようになりました。
これまで、20種類以上の異なったコアタンパク質を持つプロテオグリカンが発見されており、これらはそれぞれ異なった分子構造と機能を持っています。
また、後述するように、プロテオグリカンは、近年、さまざまな効果も報告されており、注目されている成分です。
プロテオグリカンのルーツ
サケの頭部にある鼻軟骨には、プロテオグリカンが豊富に含まれています。
サケの鼻軟骨は、氷頭と呼ばれ、北海道、東北地方の一部の地域では、薄切りにして大根と合わせ、塩、酢、調味料で和えた「氷頭なます」という郷土料理として食されています。平安時代前期に朝廷から出版された「延喜式(えんぎしき)」(927年に完成)の中にも、朝廷への氷頭の奉納に関する記述があり、古くから豊富な食経験があります。
サケの頭部は、水産加工品の製造工程において廃棄されることが多く、資源の有効利用が求められていました。そこで、わが国では、サケの鼻軟骨から高純度でかつ大量にプロテオグリカンを抽出する技術が確立されました。
プロテオグリカンの性質
プロテオグリカンには、「グリコサミノグリカン」と呼ばれる糖が多数含まれています。この糖は水となじみやすいため、スポンジのように多量の水を保持することができます。
また、プロテオグリカンに含まれるコアタンパク質は、分子中にヒアルロン酸結合を持っているため、保水力のほかに、衝撃を吸収するクッションのような機能を持っています。
これらの機能によって、皮膚では弾力が与えられ、関節の軟骨では衝撃が吸収されます。
プロテオグリカンの種類
プロテオグリカンには、コアタンパク質の違いやこれに結合するグリコサミノグリカンの違いにより、次に挙げるような種類があります。
・「アグリカン」
プロテオグリカンの最も代表的な種類です。動物の体内に存在するプロテオグリカンの大半を占めています。主に軟骨組織に存在し、軟骨の重要な役割である、外部からの衝撃の吸収作用を担っています。
・「パールカン」
細胞と各組織との間にある基底膜に存在しています。
・「バーシカン」
主に皮膚の真皮層に存在しています。
プロテオグリカンの4つの効果
次に、プロテオグリカンの美容と健康に関する代表的な効果についてご説明します。
1.美肌効果
プロテオグリカンには、美肌効果があると考えられています。この美肌効果について、メカニズムに応じて以下にご紹介します。
(1)EGF様効果(表皮細胞増殖促進効果)
プロテオグリカンには、美肌効果が期待できるEGF(上皮細胞増殖成長因子)に似た効果が確認されています。
EGFとは、細胞の成長や増殖を促す因子のことです。EGFは加齢とともに減少し、細胞の再生機能が低下してしまいます。これによって、肌のターンオーバー(新陳代謝)が遅くなり、肌の老化の原因となります。これに対して、プロテオグリカンには、細胞の成長や増殖を促す効果が報告されています。
これまでの研究では、正常ヒト表皮角化細胞にプロテオグリカンを添加すると、プロテオグリカンを添加していない細胞試料と比較して、表皮角化細胞の増殖を促進することが認められています。この結果から、プロテオグリカンには、表皮の新生を促すEGF様効果が期待できます。
(2)ヒアルロン酸・コラーゲン生成促進効果
プロテオグリカンには、ヒアルロン酸やコラーゲンの生成を促す効果もあります。このため、シミのもとになるメラニンの生成を抑える効果や、色素沈着の予防・改善が期待できます。
また、プロテオグリカンは、ヒアルロン酸の1.3倍の保水力があるとされています。上述したように、プロテオグリカンは、ヒアルロン酸やコラーゲンの生成を促す効果があるため、保水力をさらに向上させることができます。このような高い保水力により、肌の乾燥やシワの防止、たるみ、くすみなどの改善が期待できます。
2.変形性関節症の症状を緩和する効果
プロテオグリカンには、変形性関節症の症状を緩和する効果があります。プロテオグリカンは、軟骨を構成する成分の一つであり、関節において発生する衝撃を吸収するクッションの役割を果たしています。
変形性関節症は、関節の軟骨がすり減るなどして、滑らかな動きができなくなり、壊れた軟骨などの組織のかけらによって痛みや腫れが発生し、このような状態が続くと関節の変形をきたす疾患です。
プロテオグリカンは、軟骨を形成する細胞を増殖させたり、この増殖させた細胞が軟骨を形成するように促したりする作用があります。この作用によって、軟骨の再生を促進することができ、変形性関節症の症状を緩和する効果が期待できます。
3.炎症を抑制する効果
プロテオグリカンには、体内で炎症を起こす細胞の生成を抑える、炎症抑制効果があることも分かっています。プロテオグリカンは、炎症を抑えるサイトカイン(細胞から分泌されるタンパク質)の働きを促します。この働きによって、炎症を抑制し、特に大腸炎などの疾患に対する予防効果が期待できます。
一方、肌のシワ、シミ、たるみなどの老化は、炎症を引き起こす免疫細胞の働きによって加速すると考えられています。プロテオグリカンには、免疫細胞の炎症を起こす働きを抑える働きがあります。これによって、老化を促進する活性酸素の発生も抑制できるため、肌を若々しく保つ効果も期待できます。
4.生活習慣病の予防・改善効果
プロテオグリカンには、生活習慣病を代表する肥満や糖尿病を予防および改善する効果があると考えられています。
プロテオグリカンには、体重を軽減する働きや、血糖値の上昇を抑制する働きがあります。また、これまでの研究により、糖尿病の判断基準となるHbA1c値の上昇を抑制する作用があることも分かっています。
炎症を起こす物質が慢性的に過剰になると、さまざまな生活習慣病の原因と言われている活性酸素を発生させます。上述したプロテオグリカンの炎症抑制作用により活性酸素の発生が抑制されることで、脳・内臓・血管の老化、肥満、糖尿病などを予防する効果があると考えられています。
プロテオグリカンの摂取量と副作用について
プロテオグリカンの副作用については、これまで報告されていないようです。
人間の安全性試験において、健常な成人10人(男性5人、女性5人)に、サケ鼻軟骨由来のプロテオグリカンを1日当たり600 mg、5日間継続して経口摂取させた場合に、臨床上問題となる影響が認められなかったことが報告されています。
そもそも、プロテオグリカンは、人体にも存在する物質であるため、過剰に摂取しなければ安心とも考えられます。なお、商品のパッケージや説明書に記載されている情報(取扱い上の注意点など)には、一度目を通しておくとよいでしょう。
ただし、プロテオグリカンの安全性評価については、人間に関する研究例がそれほど多くはないことから、今後の詳細な検討が待たれます。
まとめ
ご説明してきましたように、プロテオグリカンは、保水性に優れていることなどから、美肌効果が期待でき、肌の乾燥、ハリ、弾力、シワなどを日ごろから気にされている方におすすめです。
また、変形関節症の方、炎症を抑えたい方、生活習慣病を予防したい方にもおすすめです。さらに、副作用についても現時点では報告されておらず、塗布でも経口摂取でも安全に使用できる点が長所です。
そして、プロテオグリカンは、コラーゲン、ヒアルロン酸などの他の美容成分と比べても、少量で高い効果が見込めるとされています。近年、プロテオグリカンが原料として含まれている化粧品、健康食品・サプリメント、医薬品が各社から販売されています。この機会に利用されてみてはいかがでしょうか。